下北沢の伝説的ジャズバー「LADY JANE」来春閉店へ 松田優作が愛し、中島みゆきが歌にした半世紀

2024-09-17 HaiPress

生前の松田優作さんら多くの文化人が通い、中島みゆきさんが歌にもした東京・下北沢の伝説的なジャズバー「LADY JANE」(レディ・ジェーン)=世田谷区=が2025年4月、創業50年の節目の年に閉店する。入居する建物の賃貸契約が切れるためで、「下北沢の顔が消えてしまう」と惜しむ声が上がっている。

◆オーナー「この場所でなければこの店はできない」

下北沢のジャズバー「LADY JANE」

小田急線・京王線の下北沢駅から徒歩数分の同店は1975年1月、当時小劇団を主宰していた大木雄高(ゆたか)さん(79)が開店。演劇や音楽の街として独自の文化を育んできた「シモキタ」を象徴する店の一つで、俳優や音楽家、アーティストらの交流拠点となってきた。中島みゆきさんは2015年に「LADY JANE」と題した曲を発表しており、店はみゆきファンの聖地にもなっている。

大木さんは「閉店は無念。交渉したが退去は覆らず、この場所でなければこの店はできないので決断した」と説明した。

下北沢駅前は、再開発で街並みが大きく変わっている。今後も駅周辺の再整備は進む計画だ。

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◆劇場やライブハウスが立ち並ぶ街で

下北沢の顔の一つ、ジャズバー「LADYJANE」。オーナーの大木雄高さんが、俳優の松田優作さん、ミュージシャンの中島みゆきさんら多くの文化人とともに歩んだ半世紀を振り返った。

映画のポスターなどが飾られた店内で思いを語るオーナーの大木雄高さん=世田谷区で

本多劇場、ザ・スズナリなどの劇場やライブハウスが立ち並ぶ街の中にあるLADY JANEは、カウンターとテーブルで30席ほどの店。カリスマ的人気を誇った松田さんも常連客で、1989年に40歳で急逝する直前まで連日のように通った。

◆「優作にとって、店は日常と非日常の間を流れる川」

写真左:店の奥にある松田優作さんのポスター写真右:松田優作さんがキープしていたボトル

大木さんと4歳年下の松田さんは小劇団の主宰者同士として知り合い、やがて親友に。松田さんが大スターへと駆け上がる日々を間近で見守った。松田さんから懇願され、米映画「ブラック・レイン」のハリウッドでの撮影に立ち会ったこともある。

「優作にとってこの店は日常と非日常の間を流れる川であり、自分は船頭だった」と大木さん。松田さんのバーボンウイスキーのボトルは今も店に残る。

◆桃井かおりさんが芸術論竹中直人さんの近著に登場

松田さんの俳優仲間の原田芳雄さん(故人)、桃井かおりさんらが店で芸術論を繰り広げた。竹中直人さんは近著で、松田さんに初めて店に連れられてきた時の強烈な思い出をつづっている。ジャズ奏者坂田明さん、写真家荒木経惟(のぶよし)さん、落語家立川志の輔さんら多数の文化人もなじみだ。

店内には荒木経惟さんの写真も飾られている=世田谷区で

◆中島みゆきさんも歌に織り込んだ下北沢の変化

中島みゆきさんは2015年に久しぶりに店を訪れ、新譜アルバム「組曲(Suite)」のアナログ盤を届けるとそのまま立ち去った。旧知の大木さんは収録10曲の最後の曲名が「LADY JANE」と知って驚愕(きょうがく)し、感謝した。

その歌詞にも描かれているが、店も下北沢の街も時代の変化の中にあった。大木さんは2004年に下北沢駅周辺の再開発計画が明らかになって以降、「下北沢から路地をなくせば文化も失われる」と懸念。有志らの中心となって「シモキタヴォイス」と題したシンポジウムを開くなど活動してきた。

◆「歌の言葉は冬の虎落笛のようでもあり、小春日和のようでもある」

再開発が進む下北沢駅前広場周辺

一連の計画のうち、小田急線の地下化とその跡地利用による再開発は2022年に完成したが、駅前を貫く道路(補助54号線)計画は進行中で、大木さんは「これからの方が深刻」と憂う。

「再開発の街で、店はこれまでも閉店の危機にさらされてきた。今回は賃貸契約の更新が認められず、無念だが閉店を決めた。もう店はしません」と悔しげに語る。

「『LADY JANE』の歌を届けてくれた年はみゆきさんも店もともに40周年でした。10年を経た2025年の50周年で店が消えいこうという時に、断腸の思いの私に、歌の言葉は冬の虎落(もがり)笛のようでもあり、小春日和のようでもある。私の心を歌ってくれているように聞こえるのです」

◆文・増田恵美子写真・市川和宏、安江実

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LADY JANEオーナーの大木雄高さん。天井には映画のポスターがぎっしりと飾られている=世田谷区で

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